2004年4月 片栗の花

「奥さん、この近くのお寺の裏山に片栗の花が咲いていましたよ。」通りがかりのご婦人が義母に話しかけている。今日は天気も良いので、近くのお寺の枝垂桜を見に行こうということになり、道草をしながら義母と妻と私との三人が近所を歩いていたところだった。私は、近くの寺や社の境内などをよく歩いているが、片栗の花が咲いているということは今まで聞いたことがなかった。その人は近所の方かどうかは分からないが、どうもこの近在には詳しいらしい。兎も角行ってみることにした。

この寺には中庭に特異な「横木の門」がある。関東十八代官の一人設楽家が江戸に移る際に、屋敷門をここに移したものとのこと。この門は楠の大木を横に切り柱に加工したところからこの名がつき、この形は関東では唯一のものとのこと。この門は、幾たびかの補修が加わっているが創建当時の姿をほぼ保っており、見るからに年代を経た武家屋敷門の風趣を残している。墓地には設楽家ゆかりの宝篋印塔(ほうきょういんとう)、河野家・中村家、ほか千人同心の墓等が多い。

この寺は南浅川南側の丘陵の一角に位置し、丘の北側添い脇道の丁字路に面している。西側には本堂、北斜面には林を開いた墓地が広がる。本堂の手前には、丘の麓の清水から引いた池があり、池に架かる小橋を渡って墓地入るようになっている。門前の左脇には染井吉野の大木、右脇には枝垂桜の古木があり、その垂れ枝は道の真ん中にまで迫り出している。中央線沿いのけやき道から正面の枝垂桜を望むことができる。

今年の東京の開花宣言が3月18日。枝垂桜の開花時期は染井吉野よりも若干早いが、この初花は東京のそれとほぼ同じ時期であった。枝垂桜の内に入って見上げると、幾条もの垂れ枝の花に日が差し込み様々な色相を見せていた。

寺の「横木の門」を潜ると本堂の前に出る。そこからは擂り鉢状の墓地が一望できる。この墓地の中央には、妻が二十年来お世話になった洋裁の先生のお墓がある。既にどなたかがお参りをしたかお花が生けられてあった。三人は並んで墓前に手を合わせる。終わってから、墓地の中を一巡りする。高台の東側の竹藪から雑木林の際を歩いていると、少し開けたところに片栗の花の一むらが見つかった。

かたかごを 引つぱる風の 吹きにけり 勝彦