2004年6月 蓮の浮葉

「寄っていきなさい。」道端に座っている老婦人に呼びとめられる。導かれてお寺の境内に入ると本堂の傍らに沢山の枯蓮が風にゆれていた。蓮の茎はみな細り、ところどころ折れて嵩が減っている。庫裡に入いると角張った黒豆大の蓮の種と焦げ茶色の蓮の台(うてな)を見せられた。大賀蓮の種とのことである。

先代の住職が1963年に古代ハス研究の世界的権威だった大賀一郎博士から蓮の根茎を分けてもらって発芽育成し、2年後の1965年8月15日の早朝、ピンクの大輪の花を咲かせたという。以来、毎年咲きつぎ今日に至っているとのこと。

この蓮の種は、1951年に東京大学検見川厚生農場(現同大学総合運動場)の2千余 前(弥生時代)の地層から発掘された蓮の種3粒のうち、1粒だけが発芽育成に成功 した                 もので、大賀博士にちなみ「大賀蓮」、又は「二千年蓮」と呼ばれて、種が分けられ て全 国に広まっているという。

持ち帰った5粒の種を翌年5月に鉢に撒き、今年で3年目に入る。1、2年目は直径35センチの小鉢に植えていたが、3年目の今春に42センチの大鉢に植え替えた。小鉢には目皿が敷いてあったが、蓮の根が目皿の下まで貫いて広げた。水面の鉢の底に数珠繋ぎの太い蓮根が成長し、とぐろを巻いていた。

植物は、昼間炭酸ガスと水を原料に太陽の光で光合成をして酸素とでんぷん等をつくりだし、夜には根や葉等にそれを蓄え太らす。植物は水面(または地上)に葉や茎(又は幹)を成長させ、水面下(または地下)には根を広げる。1日に昼(明)があれば夜(闇)があり、1年には四季があり冬から春へと循環する。また、生物は遺伝子(DNA)が親から子供に伝わることによって絶えず生命を再生(発展的循環)をしている。

今春、思いがけなく太く育った蓮根を見て、見えない水面下(又は地下)の世界に自然(または生命)の不思議の一端をみた思いがした。
六月に入って、蓮は次々に太い茎を水面に突き出し丈を伸ばしてきている。種から三年目の今年、果たしてこの大賀蓮は花を咲かせてくれるだろうか。
              
さはさはと たぐれる風の 浮葉かな 幹治