2005年1月 大寒

雪が降り続いている。車は下り坂にさしかかった。下方約30m位先で左に道が曲がっているようだ。路肩に雪が降り積もり道幅がはっきりしない。車を坂に乗り入れる。カーブにさしかかってハンドルを左に切る。ハンドルが空回りし、ずるずると滑ってガードレールに接触。幸い車体には大した損傷がなかったので車体を立て直しゆっくりと坂を下る。
 
寒に入って間もない頃だった。私は無線施設工事の責任者として春先に村に入り、秋には完成する予定でいた。村に大雪が降り、役場の親局から試験電波を発射してみると電波が届かない地域が生じた。そこで試験調整期間を延長し、そのまま現場にとどまることになった時のことだった。
 
この村は、八ヶ岳東側山腹の千曲川上流にあり、東西に約20kmの奥行きがある。農作業ができるのは春から秋にかけての約半年位。10月に入ると雪が降り始め農作業ができなくなる。ここは、夏は涼しく冬は寒い。レタスなどの高原野菜の栽培に適した地域である。山を削り、その土をレタス畑に客土しているところに何度か出会った。収穫した野菜は関東や関西に向け農協を通じて出荷をしていた。

このあたりの標高は約1,200m。冬期には日中でも室外気温が零下10度位までに下がることがある。この位の気温になると耳を覆った帽子を被っていても、寒さで顔はこわばり耳たぶが痛くなる。この冬は約1m位の積雪があった。ここは気温が低いため、一度雪が積もると春先までとけないでそのまま氷雪になる。雪が降ると千曲川沿いの県道を朝と晩に除雪車が出動して除雪する。県道を往来する村人は雪道に馴れているのでどんどん飛ばす。車にチェーンをはかせてあっても、ハンドルを切りすぎると直ぐにスリップをする。わたくしは、対面車を避けようとして何度か接触しそうなったことがあった。

今回は、電波の届きの悪い地域を受信機で調べる仕事だった。目的の集落に着いて家を1軒づつ回る。殆どの家は老夫婦だけだ。調査が一段落すると、まず上がれといわれ、お菓子や蜜柑などを出してくれる。暗い家の中には薪ストーブが赤々と焚かれている。あまり長居はできない。次の集落に向けて車を走らす。1日に15軒位を回るとして、全て回りきるまでには約半月ほどかかった。工事中に何度か雪が降ってきたことがあったが、幸い雪に閉じ込められることもなく、無事に3月末に村役場に無線施設を引き渡すことができた。

一戸より いでて一戸へ 頬被り 幹治