2005年11月 人工林のスギ・ヒノキ

わが国のスギ・ヒノキは、人工林のうちでどの位の面積を占めているだろうか。国土面積が3,779万ha、人工林と自然林を合わせた森林面積が2,444万ha(約64.7%)。森林面積のうち人工林が1,358万ha(55.6%)。人工林のうち針葉樹が1,009万ha。針葉樹のうちスギが453万 ha(44.2%)、ヒノキが256万ha(22.4%)を占める。その他にアカマツ・クロマツ・カラマツが続く。 農林水産統計2004より。東京都の総面積は2,102千ha、うち森林面積が760千ha(約36.2%)。檜原村の総面積は10,542ha、うち森林面積が9,749ha(約92.4%)。森林面積のうち人工林が6,457ha。人工林のうち針葉樹が6,455ha(約99.96%)。また、所有形態別現況森林 面積では、国有林なし、公有林1,156ha、私有林8,593ha。  
平成2年2月1日現在「数字で見 る西多摩」より


以上の数字を見ると、日本は森林が国土の約6割以上を占める。森林面積の約6割が私有林で、その約7.5割が人工林といわれ、そのまた約6割以上をスギ・ヒノキが占める。 
 
1931年から15年続いた戦争中に日本中の山々の木が伐りだされ、山々ははげ山となった。戦災で家が焼かれて住宅建材が不足したため、国が国家的事業で植林を推進し全国の林業家が一斉に山々にスギ・ヒノキなどの針葉樹を植えた。ここ檜原村でも全村挙げてスギ・ヒノキの植林が行われたことだろう。戦後60年を経過して、現在の山々はどうなっているのだろうか。
 
2005年10月に、檜原村の林業家の田中惣次氏を訪ねた。氏の森林経営面積は約361haある。そのうち人工林が約6割(約221ha)で、スギが約136ha、ヒノキが約85ha。天然林がナラ、シデ、クリ、サクラの雑木などで約139haとなっている。

氏は、1969年に大学を卒業すると同時に家業の林業経営に従事し、多角的な林業経営などに取り組み、現在に至っている。針葉樹と広葉樹の混交した豊かな森林づくりを理想とし、伐期齢を200年と定め、皆伐から間伐・択伐へと林業の主体を転換してきた。材木販売方法の改革・利用面で消費者と産地を結びつける活動を行っている。また、所有林のうちの約20haの混交林を「遊学の森」と名づけ、環境教育・自然とのふれあいの場として多くの市民や子供達に開放している。
 
今回は、この「遊学の森」を見学した。この森は、氏のコテージの裏手を流れる南秋川の対岸の北斜面に広がっている。山に入るボランティアのために、山道は道をつくるボランティアが道を切り開き維持管理している。渓流の高さ約30mに架かる吊橋を渡り対岸につく。山道はガレ地でかなりけわしい。森を一回りするのに約2時間はかかる。

この森は、スギ・ヒノキ・サワラ・モミ・ヒバなどの針葉樹に、コナラ・ケヤキ・カエデ・モミジなどの広葉樹の混交林だ。スギは枝打ちされ、適切な間伐や択伐がされているようだ。説明板がいたるところ設置されている。尾根筋にでると昔の炭窯の跡があった。戦前までは、多くの炭焼きが山に入り炭窯を築き、木を伐り、炭を焼いた。スギはヒノキとならび、日本特産の木材として昔から多く栽培され、住宅用建材に利用されてきた。

戦後20年~30年を経過した頃、安い輸入材が殆ど無関税で輸入され、国産材が市場から駆逐されていった。現在、50年木の山出し価格がなんと約800円位にしかならないそうだ。これではとても林業経営が成り立たない。その結果採算が立たないため、多くの各地の人工林は枝打ちや間伐をしないままに放置された。現在、これらのスギが異常に多く花粉をつけ赤茶けている。芽吹きの頃になると広範囲にスギ花粉飛び散り、これを吸った多く人々がスギ花粉アレルギーによる花粉症を引き起こして苦しんでいる。
 
適正に管理をすればこのようなことは起きない。針葉樹は広葉樹に比べ、枝葉や根張りを広げない。単位面積当たりの針葉樹の生産量は広葉樹に比べて多いという。針葉樹は根を垂直に深く下ろすので山崩れを防ぐ効果に優れている。むしろ、もっと針葉樹を植えるべきだとのこと。昔にはなかった、このスギ花粉症の広がりは、自然が人間に「これ以上自然を破壊するな」と警告しているようだ。日本には昔から、木を伐ったら植えるという「木の文化」があった。

木曾ヒノキ・秋田スギ・青森ヒバの三大美林はことごとく針葉樹の人工林だ。森林には水資源涵養・洪水防止などの環境保全と材木などの資源供給の二つの側面がある。山村の人々は後世のために営々と植林してきた。自然環境を破壊し続けてきた近代物質文明は、過去世代が森林をつくって育ててきた環境という遺産を食い潰すことによって成り立っている。
          
露けしや ガレ場にふとる 杉(すぎ)檜(ひのき) 幹治