2006年12月 立冬

高台の野菜畑に木枯らしが吹きぬける。今朝はよく晴れた。林に囲まれた畑地から約2km先の南大沢のマンション群を望むことができる。高層の人工建造物が地平から天につきでている様は、なんとも不自然で異様な景色だ。近くの林では紅葉が散り始めてきた。畑地の真ん中には柿の木が1本ある。葉はほとんど落ちて、延びた枝々に橙色の実がつき青空に浮かんでいる。近くのカラスは渋柿のせいか啄ばみにこない。
 
また畑の隅には柚子の木があり、常緑のかたい葉の間に黄金色した実をちりばめている。そのかたわらにカリンの木がある。すでに葉を落とし枝ばかりになっている。おおぶりの黄色の実が地面に散乱し、あたりには仄かな匂いがただよっている。以前にカリンの実で果実酒を作ったことがあるが、他の用途はあまり聞かない。

今朝は葱畑の雑草取りからはじまった。葱は約15cm位の丈に育ち、葱と葱との間にスギナなどが生えている。その一つ一つを手でつかみとる。土寄せした畝の斜面と畝間の雑草は鋤簾(じょれん)を使ってかきとる。これには2種類があって、ステンレス刃のついた小型の三日月形と中型の半月形とがある。畝の除草には三日月形が手軽で扱いやすい。半月形は幅があるので畝づくりや土均しに使う。
 
畑土の荒起こしには4本櫛歯の備中鍬を使っている。サクサクと手元に抵抗なく土起しができる。硬い土を起こす時や牛蒡(ゴボウ)掘りにはシャベルを使う。これはスコップともいうが、前者が英語よみで、後者はオランダ語よみという。抜いた雑草や作物を運ぶには箕(み)が便利だ。道具を使う場合は軍手をはめる。また除草や植付はゴム手袋をはめて作業をする。これまでの畑仕事では鍬の出番がほとんどなかった。
 
雑草を根絶やしするには根を取り去るのが一番だが、一つ一つ手で引き抜いていたのでは時間がかかる。それでつい三日月形の鋤簾でなぎとってしまうが、地中に根が残るので直ぐに生えてくる。しばらく使っていなかった畑の雑草を根絶やしにするには、4~5年かかるという。ヒトは道具を使う動物というが、使いやすい道具では能率が倍増する。農具には、幾世代もの先人たちの知恵が詰まっているようだ。
 
畑仕事にもすこし慣れた。はじめのうちはやみくもに無駄な力を入れていたため、翌日まで手や足腰に筋肉痛がのこった。道具は、いつも同じ姿勢で、同じ持ち方で、同じ向きで、同じ調子で使うと能率もあがるしそれほど疲れない。知人の畑作業をみていると、瞬時に体が動き無駄がない。素人は迷いながら、その都度違った動作をしてしまうので無駄な時間がかかる。これが玄人と素人の差か。
 
遠くの山に日が沈む。山々が黒々と迫ってくる。気温が急にさがり肌寒い風が吹き始めた。玉葱の苗の丈は約20cm位で白玉の小さな根がついている。これからこの50本の苗の植付だ。一つ一つを指先ですこし土をほり、その真ん中に苗をおいて土をかきよせ、両手の指先でしっかりと苗の根元をおさえる。
             
玉葱植う 立冬のつち かきよせて 幹治