2008年10月聖護院蕪の種

やや紫色を帯びた直径1mm位の種を袋からあけて手のひらにのせてみる。これから聖護院蕪の種だ。あらかじめならしておいた長さ約2.4m、幅約1mの畝に3列の筋をつけ、約20cm間隔で軽く穴をあけて印をつける。小指をねじるように黒っぽく湿った土の上に4粒づつ種をまいてゆく。この畝で36ケ分の種をまくことができた。
一般に野菜の種まきは春と秋におこなう。むかしは春野菜と秋野菜にそれぞれの旬の季節感があったが、今は北から南までハウス栽培で年中なんでもある。店にならぶ野菜の形はきれいで立派になっているが、昔に比べて野菜の味は淡白になってきたようだ。

空気の澄んだ秋の青空をみていると空が地面に近づいてくるような気がする。最近、夜空を見上げることがほとんどなくなった。東京の夜空は都市の夜間照明のため数えるくらいしか星が見えない。宮沢賢治は小さいときから夜空を見上げることが好きだった。賢治が宇宙について述べているところを列記してみる。

自我の意識は個人から集団社会宇宙と次第に進化する
正しく強く生きるとは銀河系を自らの中に意識してこれに応じて行くことである
農民芸術とは宇宙感情の 地人 個性と通ずる具体的な表現である
まずもろともにかがやく宇宙の微塵となりて無方の空にちらばらう
ここは銀河の空間の太陽日本陸中国の野原である
宮沢賢治は農民芸術概論綱要

この中で「宇宙の微塵となりて無方の空にちらばらう」とはどういう意味であろうか。この身を粉砕して微塵となるということは「無私」の極となって宇宙を満たそうということか。また「自我の意識」が「進化」するともいっている。これは「理想を目指したおのおの命が微塵となって宇宙に遍満させよう」という賢治の願望を表現しているようにもとれる。賢治は、何ものにもとらわれない発想をした自然人だった。さて、宇宙とか塵とはどの位の大きさになるだろうか。次の資料により、想像を絶する超極大、超極小を垣間見ることができる。

極小から極大の長さの単位を10の級数で表すと、10-15mが超ミクロ(素粒子)の極小、1027m(1000億光年)が超マクロ(宇宙の果て)の極大とするとその差は1042になるという。1光年は9兆4600億kmに相当する。アシモフは宇宙空間に点在する小宇宙の密度を「32km角の大きさの部屋にある、1粒の砂」と表現した。
Web:Nikon Univescaleから引用

毎年暮れなると、ふるさと富山(福光)から早生大かぶらや蕪寿司用の甘酒が届く。わが家では約25年以上も続けて妻が蕪寿司を仕込んできた。最初は妻の両親がふるさとにいたときには義母が蕪や麹を送ってくれた。義父が亡くなり義母が上京して同居するようになってから、義母の実家の義叔父が代わりに蕪や麹を送ってくれるようになった。
冬が寒い富山では鯖を米・麹・塩で漬け込む蕪寿司や、鰯や鰊などを糠・麹・塩で漬け込む漬物が多い。これらは今のように流通が発達していなかったころ、海から遠い農村では、新鮮な魚が手に入らないため魚を干物に運んできたものを漬物にしたものである。八王子で聖護院蕪が手にはいらないかと八百屋に聞いてみたが、中位のものはあるが蕪寿司になるような大ぶりのものがない。冬に雪がふる北陸にくらべ、比較的温暖な関東では漬物文化が発達しなかったため漬物用の蕪の需要がないのだろうか。
数年前から畑で野菜をつくるようになったので、今年初めて聖護院蕪の栽培に挑戦する。さて、11月末までに蕪寿司用のものが収穫できるかどうか。

聖護院 蕪の種まく 秋天下 幹治


余禄
蕪の原産地はアフガニスタン近辺(東洋系カブ)と南西ヨーロッパ(西洋系カブ)の2ヶ所で別々に改良されたので、この2ヶ所とも原産地と言われています。紀元前の相当古い時代から栽培されていたようで、紀元前1~2世紀のギリシア、ローマではすでに色々な種類のカブが作られていたという記録があります。金町小蕪-西洋系の代表的なカブ。東京都葛飾区金町近辺の特産でしたが今では関東近辺で最も多く栽培されているカブです。純白できめ細かな肉質、ほんのりとした甘さ、歯ごたえ、腰高の美しい形など、 高度に品種改良されている事から野菜の芸術品と言われます。少しでも大きなものを買いたくなりますが、直径5cm以下の方の品質がいい。種をまいてから50日ほどで収穫でき、一年中栽培されています。

天王寺蕪-東洋系の代表的なカブ。大阪市天王寺付近で改良された扁平の中型のカブ。 関西を中心に広い地域で作られている。
聖護院蕪-5kgに達する有名な大型の蕪。京都市左京区聖護院の特産で千枚漬けの原料になる。
日野菜-これもカブの仲間です。滋賀県蒲生郡日野町を中心に滋賀県近辺で栽培されている細長く頭部だけが赤いカブ。桜漬け(日野菜漬け)の原料。
松ヶ崎ウキナ蕪-一つの根(カブ)から4~5本の茎と数十の葉が出ている特殊なカブ。京都市左京区松ヶ崎の特産で、日持ちがいいのでぬか漬けにして保存食にされる。日本には奈良時代以前に渡来していたと言われ、 日本書紀(720年成立)には持統天皇が桑や栗とともにカブの栽培を奨励したことが書かれています。 ただしその頃は今のように根が大きくなく、葉のほうを主に食べていたと思われます。 カブの葉は大根に比べて柔らかいので好まれたのでしょう。

日本では西洋系のカブと東洋系のカブ、両方とも盛んに栽培されていて、各地で様々に品種改良された多くの種類が作られています。西洋系のカブは中国・韓国には見られず、いつどのようにして日本に伝わったのかは謎とされています。
Web:かぶ(蕪)_食材辞典より引用