2009年11月民謡おさらい会

そとは冷たい雨が降っている。すでに50前後人たちが集まって机や椅子を並べ会場づくりの準備をしている。ここは町田市相原町中相原公民館。築50・60年以上は経っているだろうか、相当古い建物だ。今日は年に一度行われる民謡のおさらい会だ。

出席者の全員が本日出演するひと達だ。わたくし達5名の仲間は客演ということで招かれた。本日の主催者は津久井民友会。会が発足して40年以上にもなり皆かなりのベテラン揃いだ。「おらだちの唄民謡おさらい会」は今年で37回目を数える。本日の参加は主催者に友情出演を含めると9団体である。参加者は年配者がほとんどで戦後の演芸ブームの時代に民謡や日本舞踊などをやっていた生き残りのようだ。三味線(津軽三味線を含む)や尺八もすべて自前でまかなっている。

オープニングは出船音頭(北海道民謡)だ。北海道の漁師の民謡だけあって掛け声も勇ましく威勢がよい。演目は全部で99曲となっている。民謡のほかに日本舞踊とカラオケが入っている。出演者は一人2曲唄う。始まりが午前10時で、終了はおそらく午後5時を過ぎるだろう。

終戦後、全国的に素人演劇が流行った時期がある。わたくしのふるさとの福光でも盛んに時代ものの演劇が行われた。当時、娯楽が少なかったので自前で一座をつくり、農閑期などに近在の人々を集め興行が打たれたものだった。おそらく戦前からこの種の演劇が行われていたものだろう。地方に行くと今でも豪華な衣装を纏った農民歌舞伎や神楽などの興行がみられる。一昔前には中央のさまざまな文化が地方の隅々に行き渡っていた証拠である。

面白いもので「めでた・若松様」などの文句は全国いたるところの民謡に取り入れられている。都と鄙が、あるいは鄙と鄙とが、陸と海を介した交流によって長い間に取捨選択され、人々に愛され生命力のあるものが生き残っていった。
昔の農家は春や夏の農繁期に朝から晩までよく働いた。その一方で冬の農閑期には自らが演者になって出演し演芸を楽しむゆとりがあった。

今は便利になってなんでもお金さえあれば手に入る。その反面、忙しくなって稽古ごとなどする余裕がなくなった。物・金に追われている。物質的には豊かになったが精神的にはむしろ貧しくなった。今は工業化が進み過ぎ、ひとびとは地面から離れた生活をしている。昨年からの世界同時不況により輸出が伸び悩み、不景気が当分続く。経済成長中心社会から維持可能な社会へ、工業重視から人や自然を重視した産業構造へ変換せざるをえないだろう。

青森から津久井に移り住んで津軽三味線を広めているひとがおり、その仲間も参加している。当初は三名位で始めたものが今日では十名以上に増えているという。力強い津軽三味線の迫力は圧倒的だ。弘前では、毎年全国大会が開かれ、全国から集まった腕自慢の奏者が競い合っている。今日津軽三味線は若者にも人気があり、吉田兄弟などのスターが出て海外でジャズとの共演を行ったりしている。生活の中で農民が育ててきた津軽三味線が世界の人のこころを捉え、世界に通用する民俗音楽となった。

田舎に戻った若者が伝統文化に触れて再発見してくれると新しい動きが出てくるかもしれない。時代を前に進めるのは若者である。一時的な流行りものと違い、真の伝統文化は時代に合った解釈を加え、必ず再生してくるだろう。いづれにしても地面に足を下ろしているものは長続きする。

曲目はどんどん進む。民謡の演目は津軽などの東北ものが多い。中間ものには関東・中部・北陸、西ものには近畿・中国・四国・九州(演目にはないが沖縄も含む)がある。東北ものには縄文式狩猟採集文化が、西ものには弥生式稲作文化の匂いがする。日本の各地の風土の違いが、そこに住む人びとの多種多様な文化を育んできた。

三味線の 撥音高き 秋の雨 幹治


参考
鈴木秀男は,一年中寒帯に属する北海道北部を除くと,日本の気候区分は夏と冬で熱帯気団と寒帯気団が入れ替わる中緯度気候帯であることに注目し,日本の気候の特徴は冬の降雪量の違いにあるのだと考えた気候区分を提唱している。

今回の演目 ※わたくし
(北海道)
北海浜唄
江差馬子唄
道南口説

(青森)
嘉瀬の奴踊り
津軽よされ節
津軽タント節
津軽音頭
津軽あいや節
津軽じょんがら節
津軽あいや節
南部俵つみ唄
津軽小原節
津軽願人節
津軽木挽唄
津軽山唄
十三の砂山
りんご節

(岩手)
南部牛追唄※
外山節
生保内節

(秋田)
秋田船方節
秋の山唄
秋田タント節
秋田かまやせぬ
秋田人形甚句
秋田小原節
本荘追分
長者の山
秋田おばこ
秋田追分

(山形)
庄内おばこ
紅花つみ唄

(宮城)
さんさ時雨
お立ち酒

(福島)
新相馬節

(茨城)
九十九里大漁木遣り唄
磯原節

(東京)
大島あんこ節

(神奈川)
箱根馬子唄

(愛知)
岡崎五万石

(長野)
小諸馬子唄

(新潟)
佐渡おけさ
米山甚句

(富山)
こきりこ節※

(三重)
淡海節

(奈良)
吉野川筏流し唄

(山口)
下関ふくばやし

(愛媛)
宇和島さんさ

(福岡)
黒田節

(長崎)
島原の子守唄

(宮崎)
稗搗節
日向木挽唄
しゃんしゃん馬道中唄