2009年5月草津温泉

東京の靖国神社にある桜の開花を判断するためのソメイヨシノの標本木に、桜花が五輪咲くのを気象庁職員が確認することにより、桜の開花を宣言することが例年の慣わしになっている。それによると今年の東京地方の開花は3月21日と報じていた。わたくしが八王子の開花の目安にしているのは、近所の興福寺の枝垂れ桜である。この桜はソメイヨシノよりも1週間から10日ほど開花が早い。

今年の興福寺のそれが数輪開花したのは3月22日だった。それから寒い日が続き、一週間ほど遅れて早咲きのソメイヨシノが次々開花した。今年は例年になく桜が長持ちして4月10頃から散り始めた。

4月20日~21日、仲間と草津温泉にデジカメ撮影旅行にでかけた。バスは渋川インターでおりてから吾妻線沿いの一般道に入る。田んぼが広がっていて未だ田起しが始まっていない。山間部にはいると満開の桜が目に飛び込んでくる。このあたりの桜は標高が高いので八王子に比べると20日ほど開花時期が遅いようだ。

八王子を朝8時に発って草津のホテルについたのは、ほぼ12時ごろだった。途中3回休憩のため下車した。バスの走行時間にすれば、約3時間強を要したことになる。距離にして全長200km位になるか。草津温泉の標高は約1200mと記されているが、曇り模様ではあったが着いてみると思ったより寒くない。

夕方から雨になるという予報である。ホテルの部屋に荷物を置いてから、カメラを持って西の河原に向かう。ここは広い川床のいたるところから熱泉が湧きだし湯けむりをあげている。この光景をみて、昔のひとは此岸(現世)から彼岸(あの世)へ渡る三途川“賽の河原”を連想したものだろう。河原の中のあちこちに仏像や地蔵が据えられてある。谷の斜面の木々を離れて見るとまだ裸木が多いが、近寄ってみると木々に芽吹きがはじまりかけている。

ホテルに戻って食事を済ませ、9階の部屋から夜の湯街を眺める。高層のホテルが林立しているが、窓に灯の点っているところは少ない。不景気のために泊り客が少ないのだろうか。今回のツアーは往復のバス料金と一泊二食付きの激安料金だった。そのためか正午のホテルのロビーは、帰る人来る人でごったがえしていた。

翌朝6時過ぎに起きて外をみると、昨夜から雨が続き外は深い霧に包まれている。身支度をして同室の人と二人でカメラ持って街に降りる。路地には和菓子屋や土産物屋が軒を連ねている。湯町の朝は早い。ガラス越しに白い作業着の菓子職人や白い頭巾を被った女店主が立ち働いているのが見える。どこの和菓子屋も店先の温泉饅頭の蒸篭を出し、湯気を立ち上らせている。

路地を通って湯街の中心に位置する湯畑につく。周りを取り囲む建物が霧と湯けむりに覆われ、見通しが利かない。ときおり風が吹くと建物の屋根が見えかくれする。湯畑は幅20m、長さ60mの石垣に囲まれ、底から熱泉がもうもうと湯気を噴きあげている。

地球の地下深くからマグマが上昇し地表の地下水を温め熱湯を噴出させている。その中心が湯畑だ。それを取り囲んで大きく街が開かれている。その風情は湯町というよりも湯街と呼ぶにふさわしい。街中にいて大自然の驚異に触れることができるところは、世界中にここしかないかも知れない。霧は静かに湯街をおおっている。

ゆけむりの 霧にまぎるる 芽吹きかな 幹治


草津温泉
吾妻線JR長野原草津口駅からバス約25分、草津バスターミナル下車。町の北東部、溶岩流崖下の盆地状の小平地に温泉街が形成されている。 
西の有馬温泉(兵庫県)と並び称される関東の名湯で、泉源は湯畑をはじめ、白旗の湯・地蔵の揚・西の河原湯・熱の湯など100ヶ所余りに及び、湧出量毎分36.7トンは鹿児島指宿温泉の約69トンに次ぎ全国で2番目。なお第3位は大分県の府温泉で、4、5位は静岡県の伊東・執海となっている。
使いきれない湯は街中を流れる湯川にどんどん放出されているが、泉質が強い酸性泉のため、長い間下流部の白砂川・吾妻川流域での湯害が問題になっていた。今は石灰工場を設け、石灰を川に投入して酸性を中和し、六合村の品木地区に中和物の沈殿池、上州湯ノ湖がつくられている。
開湯の歴史は古く、約18000年前、大和武尊が東征のおり発見したとか、養老年間(717~742)に行基が開いたなどといわれている。

ふるさと文化遺産郷資料事典10 人文社

草津節

草津よいとこ一度はおいでドッコイショ
お湯のなかにもコリャ花が咲くよチョイナチョイナ

草津よいとこスキーの名所よドッコイショ
自慢の話はコリャお湯の中よチョイナチョイナ

暑さ白根の山風うけてよドッコイショ
草津娘のコリャ夕涼みとかよチョイナチョイナ

忘れしゃんすな草津の道をドッコイショ
南浅間にコリャ西白根よチョイナチョイナ

草津湯もみ唄

草津よいとこヨーオホホイ郷へのみやげよ
袖に湯花のヨーオホホイ湯の煙とかよ

草津よいとこヨーオホホイスキーの名所よ
自慢話もヨーオホホイお湯の中とかよ

暑さ白根のヨーオホホイ山風うけてよ
草津娘のヨーオホホイ夕涼みとかよ

忘れしゃんすなヨーオホホイ草津の道をよ
南浅間にヨーオホホイ西白根よ

草津温泉は、薬効の強い酸性泉であり、温度も47・8度とかなり熱いお湯の温泉であるところから、時間湯と言う入浴法が行われた。時間湯とは、午前二回、午後二回、計四回時間に合わせて入浴することで、その入浴時間の前に幅のある厚板で熱湯をかきまわし、それが済んだ後、湯長の拍子木と掛け声で入浴する。この湯もみの際に、一斉に唄われるものの一つがこれら唄だった。

民謡学校 フジオ企画㈱