2010年2月かぶら寿しづくり

かぶら寿しを仕込むには蕪を11月末頃までに手に入れる必要がある。一昨年9月はじめに聖護院蕪の種を、借りている畑に蒔いて約500gの蕪を20個ほど収穫できた。昨年も同じ時期に1回目の種を蒔いてみたが、虫食いなどがおきて育ちがよくなかった。そこで、2週間ほど遅らせ9月20日ごろ2回目を播種。同時期にこの種を菜園クラブのリーダーにも渡してリーダーの畑にも蒔いてもらった。結果的には、わたくしの2回目もリーダーの蕪も育ちが悪く、根割れしているものもあった。結局、かぶら寿し用の食材になる蕪が昨年末に収穫できなかった。これは天候のせいなのか、土づくりが悪いのか、種が土地にあっていなのかどうか。蕪は連作を嫌うようだし、育て方が未だよく分からない。

八王子でかぶら寿しをつくろうと思っても大蕪が店頭に出ていない。関東ではあまり食べられていない食材のようだ。そのため今まで、かぶら寿し用食材をふるさと福光の親戚の農家から送ってもらっていた。それが高齢化で大蕪の作つけができなくなり、それではと、一昨年から自分の畑で大蕪づくりに挑戦した訳だ。

年末12月に入り、わたくしのふるさと福光の道の駅「なんと一福茶屋」にかぶらがないかと電話をしたところ、あるという。かぶらは早生大蕪という品種で、福光ではかぶら寿し用に大量に生産されているという。早速6kgを手配し宅急便で入手。かぶら寿し仕込用甘酒は、インターネットで福光の「石黒種麹店」に注文し3kgを取り寄せる。丁度その頃、12月10日(木)NHK昼「ふるさと一番」で、わがふるさと福光のかぶら寿しの放映があり、なつかしい新町通りとかぶら寿しづくりを家中でみた。
ふるさと一番 http://www.nhk.or.jp/furusato/koremade/koremade_20091210.html

例年、妻が年末に行うかぶら寿し仕込みは1回分が約5kg、これを冬場に2度つくる。今では家のおふくろの味となって正月の御節料理に欠かせない。家族の楽しみの一つになっている。かぶら寿しづくりの主な手順は次のようになる。

蕪の塩漬け(天然塩) 
 大蕪を銀杏切りし塩漬け(塩分濃度約4%)、重石をして約3日冷暗所に保管
重石は蕪とほぼ同重量とし、水があがってきたら減らす。

塩鯖の塩漬け
 店頭の塩鯖を買い、天然塩を加え、冷蔵庫に約1日保管

本漬け
 塩鯖を刺身状の切り身にし、酢洗いをして蕪に挟み込む。桶の底に蕪を平らの並べ、甘酒(1.5kg)と楊枝状に切った人参を加える。これを幾段も重ね重石し約10日冷暗所に保管

昔は、魚を保存させるために干魚にするか十分塩漬けにするかしかなかった。今は冷蔵庫があるため生魚の保存が容易になった。今の塩鯖はすぐに焼いて食べられるように塩分を抑えてある。ふるさとのかぶら寿しつくりは、各家でそれぞれ違う。店で売られているものは少し甘味だ。我が家の味は少し塩味を利かせてある。冬の寒さの中で蕪と鯖が甘酒によってほどよく発酵する。暖かいと麹の発酵が進みすぎ酸味が出てくる。寒さの中でゆっくり熟成させることがコツ。

かぶら寿しは藩政期、豪商・銭屋五兵衛で知られる宮腰港(現金沢市金石)が発祥の地といわれている。漁師の“仕事始め式”であった起舟祭。毎年2月21日、海の安全と豊漁を願う、その祝いの席に、各自が手づくりのものを持ち寄り、美味を競った。
「ブリ一尾、米一俵」といわれたほどで、ブリは色々な加工法を試みられたが、かぶら寿しは、明治になるまで庶民の口にはなかなか入らぬ、ぜいたくな大名料理でもあった。
「北陸の味」と題したかぶら寿しの紹介記事 読売新聞昭和59年(1984)

この記事は妻が八王子でかぶら寿しつくりを始めた頃、参考にふるさと福光の義母が送ってくれたものだ。ふるさとの一般の家では鯖を使っていた。ブリを使うのはよほどの裕福な家に限られていた。八王子でかぶら寿しづくりを妻が始めた頃、材料を全て八王子で調達。大蕪は店頭で売っていなため小蕪で代用。かぶら寿し仕込み用甘酒は、市販の麹をご飯と混ぜ合わせて一晩保温してつくった。記事の3~4年前から八王子でかぶら寿しをつくっているので、我が家のかぶら寿しづくりは試行錯誤を繰り返しながら約30年弱の歴史になる。今では冷凍輸送技術が進み、必要な食材は全国からインターネットで簡単に取り寄せができるようになった。

海彦と 山彦出会ふ かぶら寿し 幹治


かぶら考

古くから各地でつくられてきた野菜を伝統野菜という。昔の農家は自家用の野菜の種を自分で採って確保した。近年、野菜が流通ルートに乗るようになってから種苗を専門につくるメーカーが出できた。そこでは、大がかりに品種を厳選して専門に種をつくり、全国的に販売している。
大蕪の代表品種に聖護院蕪がある。Web siteで調べると、早生大蕪は種苗メーカーのタキイがつくった聖護院蕪の一代交配品種で、病害に強く、強勢で作りやすく、早太りでよく揃うとある。寒冷地、中間地、暖地のうち、東京は中間地とすれば播種時期は8~10月になる。聖護院蕪は固定種という。早生大蕪の方が一代交配種で作り易そうだ。やはり種選びが大切だ。今年秋こそは早生大蕪の種を手にいれ、土つくりと時期に気をつけ失敗しないようにつくってみよう。

蕪も大根もアブラナ科である。大根はダイコン属で花は白色、蕪はアブラナ属で菜の花と同じく花は黄色。蕪は白菜の一種ということなので、根の形をしている部分は葉の根元になる。そこが大根と異なるので食味が違ってくる訳か。白菜も黄色の花が咲くのだろうか。
そもそも蕪とは一体なんだろうか。蕪についてWeb siteから調べてみる。

品種

アブラナ科アブラナ属。白菜などに近い種類です。 やせ地でも育つので救荒作物として世界各地で作られていますが、特にロシア、トルコ近辺、インド、 そして日本で盛んに栽培されています。

原産地

カブはアフガニスタン近辺(東洋系カブ)と南西ヨーロッパ(西洋系カブ)の2ヶ所で別々に改良されたので、 この2ヶ所とも原産地と言われています。紀元前の相当古い時代から栽培されていたようで、 紀元前1~2世紀のギリシア、ローマではすでに色々な種類のカブが作られていたという記録があります。
日本には奈良時代以前に渡来していたと言われ、 日本書紀(720年成立)には持統天皇が桑や栗とともにカブの栽培を奨励したことが書かれています。 ただしその頃は今のように根が大きくなく、葉のほうを主に食べていたと思われます。 カブの葉は大根に比べて柔らかいので好まれたのでしょう。
日本では西洋系のカブと東洋系のカブ、両方とも盛んに栽培されていて、 各地で様々に品種改良された多くの種類が作られています。
西洋系のカブは中国・韓国には見られず、いつどのようにして日本に伝わったのかは謎とされています。

種類

金町小蕪-西洋系の代表的なカブ。 東京都葛飾区金町近辺の特産でしたが今では関東近辺で最も多く栽培されているカブです。 純白できめ細かな肉質、ほんのりとした甘さ、歯ごたえ、腰高の美しい形など、 高度に品種改良されている事から野菜の芸術品と言われます。 少しでも大きなものを買いたくなりますが、直径5cm以下の方が品質がいい。種をまいてから50日ほどで収穫でき、 一年中栽培されています。

天王寺蕪-東洋系の代表的なカブ。大阪市天王寺付近で改良された扁平の中型のカブ。 関西を中心に広い地域で作られています。

聖護院蕪-5kgに達する有名な大型の蕪。京都市左京区聖護院の特産で千枚漬けの原料になります。

日野菜-これもカブの仲間です。滋賀県蒲生郡日野町を中心に滋賀県近辺で栽培されている細長く頭部だけが赤いカブ。 桜漬け(日野菜漬け)の原料。

松ヶ崎ウキナ蕪-一つの根(カブ)から4~5本の茎と数十の葉が出ている特殊なカブ。京都市左京区松ヶ崎の特産で、 日持ちがいいのでぬか漬けにして保存食にされます。

一年中ありますが、本来の旬は10月~11月と3月~5月です。

成分

根よりも葉の方に鉄分、カルシウム、各種ビタミン、が豊富に含まれています。 なるべく葉も利用するようにしましょう。

調理法

カブを買ったら根と葉を切り離して保存しましょう。切り離さないと根の水分が葉からどんどん蒸発してしまいます。
「コカブが高度に品種改良されてきた」というのはもちろん和食に合うように改良されてきているのですが、 それはずばり言って漬物にした時に美味しいように改良されたのだと思います。 それに対して関西を代表する天王寺カブは煮物に向いています。
カブは皮の内側に硬い繊維がとおっているので、皮は厚めにむきましょう。煮る時は煮すぎないようにするのがコツです。

市場

2001年の生産量は18万トンで微減傾向です。

雑学

三国志で有名な諸葛孔明が遠征の時にカブを栽培して食料にしたという話があり、そのため中国ではカブのことを諸葛菜とも呼びます。

食材辞典 蕪(かぶ) http://www2.odn.ne.jp/shokuzai/A2003/Kabu.htm



伝統野菜 蕪(カブまたはカブラ)の栽培状況一覧表(54種) 
※は地名を冠した名称
◆白いカブの仲間
 
名    称
産    地
特    徴
1
※金町(小) 東京都葛飾区 根は純白で柔らかく、現在は多くの品種に分化している人気のカブ
2
※寄居(中) 新潟県新潟市寄居町 根はやや平形、葉質が優れて間引きは風味良し、300年の歴史を持つ自カブ
3
※尾張(大) 愛知県各地 栽培地域で甚目寺、大治、菅津などと呼ばれるが、これらの総称が尾張カブといわれている
4
※富山(大) 富山県呉西地区 根径は12-13㌢、かぶら寿しが有名
5
※金沢青(中) 石川県金沢市近郊 薄い線色の丸カブで、かぶら寿しに使われる、北陸には似た青カブが多い
6
※穴馬(あなま)(小) 福井県大野郡和泉村 根は地上部が赤紫、地下部は白い、赤カブと野沢菜の交雑種といわれている
7
※古田刈(こたかり)(中)  〝  敦賀市古田刈地区 中カブだが長く置くと大カブにもなる、摘み菜も利用
8
※山内(やまうち)(小)  〝  遠敷(おにゅう)郡山内 漬物、春先の薹(とう)の浅漬は絶品
9
  白大カブ(大) 岐阜県全域 岐阜のカブは、西濃は自大カブ、東濃は(紫カブ)、に分けられているという
10
※聖議院(しょうごいん)(大) 京都府左京区 我が国のカブでは最大、根重は1.5kgにもなる京漬物の代表の「千枚漬」として知られる
11
※天王寺(中) 大阪府天王寺 「尾張」「屋島」「谷口」などの多くの類似品種を生みだしている
12
  尖(とがり 〝  この「尖り」もその一つのようだ
13
※武久(たけひき)(大) 山口県下関市武久地区 元は天王寺蕪か、甘みが強く、三杯酢
14
※弘岡(ひろおか)(大) 高知県吾川郡春野町弘岡 天王寺、塑護院の交雑樋、漬物
◆紅い(色カブ)カブの仲間
15
※札幌紫く大) 北海道一円 扁平の大力プ
16
※大野紅く中・大)  〝  道南地方 丸カブで根も葉柄も濃紅色、千枚漬
17
※温海(あつみ)(中) 山形県塩梅町一宮地区 焼き畑栽培、ナマス、漬物、かなり古い品種と思われる
18
※藤沢 〝  鶴岡市藤沢 温海カブと似ているが、ふぞろいた交じっている
19
※開田(かいだ)(中) 長野県木曽福島開田村 上部・尻部ともに平らでカブ漬け、末川蕪とも呼ばれる
20
  赤根大根(カブ)(中) ”  下伊那郡清内路村 清内路(せいないじ)と読む。栽培規模は小さい、酢潰・サラダ
21
※王滝(おうたき)(小) 〝  王滝村は開田の隣 蕪は赤紫で、とてもきれい、葉の塩漬け、カブの.ヌカ漬け
22
  赤カブ(中) 新潟県山北村 山北村は県北山形県寄り、焼き畑、漬物は芯まで赤い
23
※利賀(とが)(小) 富山県利賀村 白カブ、育カブもあるが赤カブが有名、塩漬
24
※河内(こうち)赤(中) 福井県足羽郡美山町河内 三大赤カブの一つ、漬物、煮物
25
※飛騨(ひだ)紅(中) 岐阜県奥美濃郡 長い冬の貯蔵用のカブ潰
26
※木曽紫(中)   〝  東濃 煮食と漬物
27
※万木(ゆるぎ)(中) 滋賀県安曇川町万木地方 根は露出部・地下部ともに紅いが、内部は白い、葉は浅漬け、根は糠漬け
28
※彦根  〝  彦根市 中長、赤カブ、漬物
29
※米子赤(中) 鳥取県米子市 近江からの持ち帰りといわれる、冬場の漬物
30
※津田(つだ) 島根県松江市津田地区 特徴は「曲玉状の形」と「食味の良さ」紅色で、漬物用
31
※飯島(はしま)   〝 出雲地方 鮮紅色、扁平、漬物、料理用
32
※万巻(まんぜん) 岡山県作東町万善 背部は赤紫、下部は白い、牛角状に曲がり20㌢、酢漉
33
i伊予(いよ)緋(中) 愛媛県松山地方 日野カブの変化種、「緋かぶら漬け」はおせち料理
34
※長崎赤(中) 長崎県長崎市 古くは片渕(かたふち)と呼ばれた、中玉樋、三味(さんまい)漬け、
◆根の長いカブの仲間
35
※暮坪(くれっぽ) 岩手県遠野市暮坪集落 根は小振りのダイコン状で20㌢ほど、白カブながら首の部分に青みがある。とても辛い、煮物、漬物
秋田県由利地方
36
  火野(かの)   火野というのは焼き畑から、漬物、根は長15~20㌢
37
※平良(だいら) 〟 平鹿郡平良集落 根長15-20㌢で青首となる、漬物、
38
※次年子(紬こ) 山形県尾花沢市次年子 濃紅の長カブ冬の貯蔵野菜、煮食、漬物
39
※館岩(たていわ) 福島県会津館岩村 赤紫色の長いかぶで300年もの歴史をもつという
40
※吉野(よしの)(大) 長野県上松吉野 大根型、濃赤色、漬物
41
※日野柔(小・中) 滋賀県日野町周辺 我が国では珍しい細長いカブで、根と薫は紅紫色、根は25-30㌢、漬物
◆カブ菜の仲間
42
※鬼首(おにこうペな)菜 宮城県鳴子鬼首地区 草丈40㌢ほど、漬物、葉に赤と線色のもの2種ある
43
※信夫(しのぶ)冬菜 福島県信夫郡 単に冬菜とも呼ばれる、おひたし、汁の実、
44
※長禅寺(ちlうせんじ) 山梨県甲府市の北 臨済宗の長都専前菜ともいう、草丈60~70㌢、漬物、
45
※鳴沢(なるさわ)菜 〝 鳴沢村 草丈が1mほどにもなり葉の数も多い、根は切り干しにする
46
※野沢(のざわ)菜 長野県野沢温泉村 宝麿年間(175~63)噴天王寺カブを移入したものといわれている、葉柄は大きく、漬物用として知られる
47
※稲核(いねこき)菜    〝 安曇村稲核地区 ルーツは飛騨の赤カブとされているが、濱け菜
48
※木曽菜   〝  木曽福島町岩郷 岩郷菜、福島菜とも呼ばれているが、これも漬け菜
49
※羽広(はぴろ)菜    〝 伊那市羽広地区 葉柄が短く小型の漬け菜で、葉とカブともに漬ける
50
   雪菜    〝  県内全域 冬菜とも呼ばれるが、おひたし、汁の実、浅漬用
51
※中島(なかじま)菜 石川県能登半島中島町 葉は大根に似ているカブ、漬物、煮物、和え物、抄めもの
52
すぐき菜 京都府上加茂 「すぐき」として知られる京漬物、300年の歴史を持つという
53
※太田カブ 広島県山県郡 地上部花茎のつぼみの頃に収穫して食べる。珍しい品種
54
  平家(へいけ) 宮崎県、熊本とも県境地 根は食べない、専ら葉を食べる

◆小規模な地域で現在も栽培されている蕪(18種)
山形県                     南山蕪 ※牛蒡野
長野県                     ※諏訪紅 源助菜  細島蕪  保平蕪
岐阜県                     八賀蕪 神岡蕪 ※蛭口蕪  東矢島蕪
滋賀県                     ※近江かぷ
高知県                     ※谷口かぶ 鎌田かぷ 田村かぶ 大崎かぷ
香川県                     ※屋島かぶ
福岡県                     ※博多かぶ
長崎県                     木引蕪
佐々木繁 蕪(かぶ)についての集成雑記(話)2009.12 八王子千人塾文庫より表を転載