2013年6月津軽三味線伴奏で秋田民謡を唄う

5月26日(日)午前9時半より八王子中野市民センターにて民謡・踊り合同おさらい会が行われた。わたくしが民謡の会に入ってからすでに8年目になる。習いごとはなんでも足かけ10年といわれ、10年位やらないとものにならないとされている。習い始めて3日、3ケ月、3年が節目となり、その関門をなんとか通過すれば長続きする。

わたくしは、人一倍不器用なためほかの人の2・3倍身を入れて練習しないと人並みになれないと観念している。これまでも人一倍もの好きなため、なんでもかじっては止めてきた。それでもこの民謡は8年も続いている。その最大の理由は、指導者を入れ男女合わせて10人前後の仲間と、ひとりづつ大きな声をだして練習ができることだ。家にいては出せない大声を練習場で思い切りだすと気分爽快になる。

昭和のはじめから戦後にかけて何度か民謡ブームがあった。わたくしが今教わっている先生の話を聞くと、八王子には民謡を教える先生が沢山いて、それぞれが大勢のひとを教えていた。民謡大会が行われると一日では終わらず三日も続いたことがあったという。その頃に三橋美智也が民謡歌手として出て美声で、さらにブームに火を点けた。

江戸時代、視力を失った人達は健常者の一般的な職業につけないため、盲人でもできる按摩になるか、三味線、琵琶、横笛、尺八、唄、語りなどの芸ごとをもって門付けして生活するかしか生きる道はなかった。
歌舞伎や能なども同じような素地から分かれ、受け入れる階級ごとに別の発展をしてきた。

各地にはそれぞれの民謡があり、祭りや行事の度にはみんなが集まって唄ったり踊ったりした。そのため、流れてやってくる各種の芸人たちの芸を受け入れる素地はあった。越後では盲御前(めくらごぜん)に由来する瞽女(ゴゼ)と異称される芸人たちがおり、津軽では坊様(ボサマ)と呼ばれる津軽三味線弾きがいた。

今回のわたくしの唄う曲目は、東北民謡で青森と並び称せられる秋田民謡だ。伴奏の津軽三味線は主に青森民謡で使われるが、隣県の秋田民謡にも使われる。津軽三味線は太棹とも呼ばれ、太い棹と太い弦をもつ。撥で弦を打たり叩いたりして力強い音をだす。

津軽三味線には元々楽譜がなかった。曲によって予め決まったフレーズで構成を変えながら即興で演奏した。同じ奏者でも時と場合によっては違ったように弾いた。この点はジャズとよく似ている。ジャズを始めた黒人たちは音楽教育を受けたこともなく、見様見真似で弾きながら色んな演奏をしてきた。
世の中から卑しめられ虐げられた盲目の坊様(ボサマ)たち、生い立ち・貧しさや肌の違いがあるが、共通していることは社会から卑しめられ虐げられた人間たちが、今を精一杯に生きるために全身を使って奏でた音楽が聴いている人に日々の生活苦を吹き飛ばし、魂を揺り動かした。

日本の民謡には漁師や農民が作業をする中で唄われてきたものが多い。日々の労働や生活に根差したところに民謡の生命力がある。
このように高い人間性を持った革新的な音楽は、音楽教養を身に着け豊かな暮らしをしていた人々からではなく、社会の底辺でぎりぎりの生活を強いられた民衆の中から生まれた。人間の営みとは皮肉なものである。

さて、今回わたくしが唄った曲目は秋田民謡で、一つは尺八と三味線の伴奏が付く秋田港の唄、もう一つは伴奏が尺八のみの秋田馬方節である。

今回の津軽三味線の伴奏は、奇しくもわたくしが以前に少しパソコンを教えた人だった。彼女は三味線を30年も続け、今はその師匠をしているという。秋田馬方節を唄ったときには(ハーイ、ハイ)(ハイ)の掛け声を入れてくれた。やはり本場仕込みは声の気迫が違う。

民謡出演直前の音合せ
キーひとつ 合わぬままなる 梅雨入前 幹治


秋田港の唄
曲は北前船で栄えた雄物川河口土崎港出身の作家金子洋文が昭和初期につくった。この唄の掛け声「ホーラホーサノサー・・・」は船乗りが伝馬船を漕ぐときや引き船の掛け声からきたものという。本来海上運送を担った船頭唄。

  (ホーラホーサーノサー エンヤラヤホーエンヤー
   ホーラホーサーノサー エンヤラヤホーエンヤー)
1 男鹿の山だよ 港の浜だよー
  春をむかえるにしん船
  (         )
2 沖のかもめに 父さんきけばヨー
  私しや立つ鳥 波にきけ

  (         )
3 遠くはなれて 母さん思ってヨー
  浦の浜なす 花が咲く

  (         )
4 あちらこちらに 嫁とる話ヨー
  おらが嫁ごは どこじゃやら

秋田馬方節 
東北は古くから馬の産地をして知られ、荷を運びながら各地を往復しているうちに違った各地の唄が交り合い、それが長年のうちに地域に定着していった。馬方節は各地でつくられたので、それらと区別するためこれを秋田馬方節と称している。この唄は馬を曳きながら馬方が唄うように、ゆっくりと野太く唄うのが良いとされている。本来陸上運送を担った馬方唄。

  (ハーイ、ハイ)
1 ハアーアあべーやーアーア(ハイ)
  ハアーアこのーー馬ーー(ハイ)
  いそげやーアア からーげーー
  ハアーア西ーのーオーオ(ハイ) 
  ハアーアお山にーー(ハイ)
   アリャーー日がアア くれエるーー
  間奏

  (ハーイ、ハイ)
2 ハアーアつらーアいーイーイー(ハイ)
  ハアーアものーーだよーー(ハイ)
 ばくろのーオオ よみーちーー
 ハアーア(七日)なのーかーー(ハイ)
 ハアーア(七夜の)ななやのーー(ハイ)
  アリャーーながアア (手綱)たずウ なーー