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「アメリカのデモクラシーを考える」
  トクヴェルの「アメリカのデモクラシー」ノート
別冊 参考資料編
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トランプ大統領の出現
 2017年1月20日、遂にアメリカに異色のトランプ大統領が就任した。選挙中から行っていた型破りの言動が大統領になってからも続いている。これによって世界中がかき回され、今後世界の政治経済がどのようになるのか、世界中の識者が予測できかねているのが実情である。
 1989年のベルリンの壁崩壊に続く1992年ソ連崩壊により、米ソの冷戦が終わりアメリカ一強の時代がしばらく続いた。その後中国が経済の急成長を遂げるに伴い、アメリカは貿易赤字悪化、海外への工場移転に伴う国内産業の低迷などにより国力が低下してきた。

 トランプ氏は、再び強いアメリカつくろうとアメリカ第一主義を唱え、ツイッターを使って一方的な主張を繰り返し、イギリス系アメリカ人を祖とする既成(エスタブリッ)秩序(シュメント)を罵倒する選挙戦を展開して白人中間層など一般大衆の不満を結集させることに成功し、大統領にまで上りつめた。

 現在、公約であったイスラム教徒入国禁止令、オバマケア(医療保険制度改革)、メキシコ国境に壁建設などが、内外の反対にあって現在実現が不透明になっている。
 
 朝日新聞 天声人語 2017.1.22(日)
  ジャクソン大統領の再来といわれる、トランプ大統領
 「19世紀の米大統領アンドリュ―・ジャクソンは粗野で短気な荒くれ男」、親友を重要な役職に就け、閣僚たちの内紛を招く。議会と対立し、国立銀行をつぶし、先住民を西へ追いやった。

 19世紀に戻ると、ジャクソンの人気は圧倒的だった。再選も果たした。「性格こそ激しいが能力は凡庸な男である」。彼に面会した若き仏思想家トクビルは、名著『アメリカのデモクラシ―』でそう酷評したが、米大衆の支持は厚かった。

 トランプ大統領やアメリカを知るにはトクヴィルの『アメリカのデモクラシ―』に手がかりがあること分かり、読んでみると、19世紀にフランス貴族(第一巻発表時、若干30歳)トクヴィルがアメリカの渡り、9ケ月全土を踏破して『アメリカのデモクラシ―』を見聞した内容だった。フランス人が見た客観的なアメリカ、今後どのように歴史が進むかの予測などが書かれており、大変参考になるものだ。

 トクヴィルは、『市民論』序文ホップス自身の言葉の「邪悪な人間は力の強い子供」を引用し、「大人は力の強い子供」と称した。これは現トランプ大統領に当てはまり、まさにノーブレス・オブリジュの対極にある。

 さて、トランプ大統領を出現させたアメリカとはどういう国なのか、またはアメリカの大統領とはどんな存在なのか、振り返ってみると、ほとんど知識がない自分に気がついた。本小文は、このトクヴィルの『アメリカのデモクラシ―』を手がかりに、当時のアメリカと現在のアメリカの比較を通じ『アメリカのデモクラシ―を考える』を試みた。

 『アメリカのデモクラシ―』トクヴェル著の概要
 18世紀はまさに市民革命の時代だった。1786年アメリカ独立宣言の3年後、1789年フランス革命が起き、フランス人権宣言(人間と市民の権利の宣言)が発効された。これが世界各国に波及し次々に市民革命が起きた。フランス革命後の10年後1799年ナポレオンがクーデターを起こし革命政府を倒し総統政府を樹立、第一次帝政を開いた。市民革命が全ヨーロッパに波及。各国で革命、反革命が繰りかえされた。

 当時、貨幣経済の発展により荘園制が解体、封建社会が崩壊し絶対王政時代に入っていた。本書を著した思想家アレクシ・ド・トクヴェル(1805-1859)は、今から200年前19世紀のフランスの由緒ある名門貴族の家系の三男に生まれ、多感な青年期をおくる。身内をとりまく習俗、啓蒙思想に動揺するキリスト教社会、没落してゆく貴族社会の有様をみて、さまざまな境遇の平等に興味をもつようになっていった。

 アメリカは独立戦争(1775-1783)を戦ってイギリスから独立した。これが世界初の市民革命・アメリカ革命といわれるものだった。
 デモクラシー(これと民主主義、民主政治などは同義語のため、コメントではこの語に統一した)の発展過程について、各国様々な形態がありアメリカ革命とヨーロッパ諸国の市民革命との間に相当の違いがある。トクヴェルは、青年時代にこの両者の違い強い関心をもち、25歳の時にアメリカを実地にみて調べる機会が訪れた。

 トリヴェルは独立後半世紀過ぎたアメリカに渡り、9ケ月間滞在して各地を見聞し、3年後の30歳、1835年に出版したのが本『アメリカのデモクラシ―』である。1789年フランス革命について、イギリス人貴族出自のエドマンド・バーク(1729-1797)が1790年『フランス革命の省察』を出版。その後トクヴェルが1856年『旧体制と大革命』を著している。

 本書のキーワード境遇の平等について、トクヴェルは序文で次のように語っている
 こうして、アメリカ社会の研究を進めるにつれて、境遇の平等こそ根源的事実であって、個々の事実はすべてそこから生じてくるように見え、私の観察はすべてこの中心点に帰着することに繰り返し気づかされた。
 中略
 私がアメリカを検討したのは、単に当然の好奇心を満足させるためだけではない。私はわれわれの役に立つ教訓をアメリカに見出そうと望んだのである。
 注:松本礼二訳『アメリカのデモクラシー』では「境遇の平等」と訳している。著者トクヴェルの本意からすれば「境遇の平等化」が意に適うと考えて、以降この文句に統一した。

 境遇の平等化を阻害している第一に、上下関係の厳しかった身分制度が挙げられる。当時ヨーロッパは中世から近代にさしかかり、それまで旧体制(アンシャン・レジューム)の社会階層は聖職者階級、貴族階級、国民の大多数を占める第三階級(商工業者、都市住民、農民)に分かれていた。第二に、白人と異なる有色人種が挙げられる。特にアメリカには、もともと住んでいたインディアンと、アフリカから奴隷として連れてこられた黒人になる。
 第三に、ヨーロッパの各地から大都市に集まった貧困な労働者大衆になる。

 当時世界に先駆けてイギリスから始まった産業革命が資本主義を生みだし、経済や社会の仕組みを資本主義世界経済に変えつつあった。ヨーロッパでは、貴族に代わり社会を支配する富裕な資産階級(ブルジョワジー:中産階級)と、低賃金で過酷な労働を強いられる労働者階級が生みだされた。

 一方新大陸アメリカには、もともと貴族階級や聖職者階級という身分制度が存在せず、労働者、農民の中産階級中心の市民社会が構成されていた。

本文中で歴史的必然(神の御業)として、トリヴェルはすべてが境遇の平等化へ向かうだろう、と予言している。

 前出「ノーブレス・オブリジュ」「高貴なるものの義務」、即ち貴族に生まれたものには社会的義務がある。社会を牽引する人間には、キリストの教えに基づく隣人愛の精神が大事だという、戦場行ったならば先頭に立って戦い、当然そこでは後方よりも死者が多く出たともいわれている。日本の武士道精神にも一脈通じる精神である。
 一般的に財産、権力、社会的地位を保持するものには社会的責任が伴うことを指す。
 誇り高きフランス貴族の末裔だったトクヴェルは、まさにこれを体現していた。

 『アメリカのデモクラシ―』トクヴェル著の今日的意義
 
トリヴェルが見た19世紀のアメリカと、200年後現21世紀のアメリカとでは、大きく変わった部分と変わっていない部分がある。大きく変わっている部分については、別冊資料編にて ジャクソン大統領とトランプ大統領 両時代の政治経済の比較を表にした。

 世界各国にはさまざまなデモクラシーの形態がある。いまだに暴力革命を肯定している「アラブの春」もその一つである。その中で「アメリカのデモクラシー」が世界にない特異な形態をもち、その根底は変わらずに今日に至っている。

 明の側面として、普通選挙により暴力に依らないで民意に従い国家権力の交代がなされること地方自治による地方主権が確立されていることなどが挙げられる。

 暗の側面として、インディアンとの抗争によって領土を拡張してきた経緯から、自力で奪った土地所有権を守るために銃保持・銃肯定社会の伝統が続いていること、また依然として残る黒人差別などがある。

 いずれも一方的な言説により、インディアンや黒人から新大陸を奪い取った白人が背負った原罪といえるものだ。そして、その原罪を過去・現在・未来永劫にどのように償うのか、その贖罪が問われている。

 アメリカ政治社会の研究を進める意義について、わたくしは、「アメリカのデモクラシー」の明の側面を取り上げることに今日的意義(われわれに役立つ教訓)があると考えた。
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最終更新日
2020年2月19日